名古屋市長「公務員への賃上げ財源で市民税減税厳しい」

名古屋市「減税10%」公約、26年度は困難に　職員賃上げ響く

名古屋市の広沢一郎市長は29日、記者会見で公約に掲げていた市民税の減税率を10%に拡大する方針について「（行政改革の進捗によって）柔軟に考える」と述べた。名古屋市は減税の財源の一つとして行政改革を進めているが、市職員の賃上げやアジア・アジアパラ競技大会に伴う経費、ふるさと納税の赤字もあり市財政は厳しい状態が続く。2026年度からの減税率拡大は困難な情勢だ。

24年11月の名古屋市長選挙では、広沢市長は市民税の減税率を26年度に5%から10%に拡大することを掲げていた。公約の「一丁目一番地」としている。広沢市長は25年4月に行革プロジェクトチーム（PT）を発足し、減税率拡大に向けた財源確保を議論してきた。

・市職員賃上げで「60億円以上必要」
減税の根拠となるのが行革だ。広沢市長は5%の減税率の深掘りには100億円の原資が行革によって生み出される必要があると説明する。ただ、「財政の需要が膨らんでいているなか、行革による原資をどこまで減税に振り向けられるかは現状言えない」（広沢市長）と話す。減税率拡大については「鋭意検討している」としたものの、先行きは不透明だ。

背景の一つにあるのは市職員の賃上げだ。市の人事委員会は9月5日、期末・勤勉手当の年間支給割合を0.05カ月分引き上げ、4.65カ月分とするなどの職員給与を引き上げる勧告をおこなった。現在計算中だが、仮にこの通りに予算を組むと「60億円以上が必要となる可能性がある」（名古屋市）。

市の貯金となる財政調整基金は、5月時点では年度末に31億円と見込んでいる。24年度の161億円からは大幅に縮小し、基金だけでは市職員の賃上げをまかなえない。この不足分を行革などで対応する必要がある。名古屋市は国から地方交付税の配分を受けずに財政運営できる不交付団体だが、5%の減税を既に実施しているなかでさらに深掘りするのは困難になっている。

アジア・アジアパラ競技大会の経費も重荷だ。施設の建設や改修費である投資的経費は、25年度で前年度比38%増の2501億円を見込む。大会の開催に向けてこの2年で投資的経費は1000億円以上増えており、市財政は大きな山場を迎えている。

税収自体は増加しているが、大幅には増やしにくい状況にもある。その一因がふるさと納税だ。24年度のふるさと納税実績では、名古屋市は他の自治体への寄付に伴う住民税控除額が198億円で全国2位だった。寄付額も137億円と前年度から18%増え全国7位だが、60億円超の「赤字」だ。この「赤字額」も23年度から約2億円増えた。

広沢市長は減税率の拡大について会見で「100億円の原資ができなくても、60億円あれば8%減税できる。（従来の）5%の減税率は死守する」と話した。行革の見込みについては、来年度の予算公開の過程で、年内に示す方針という。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFD256XE0V20C25A9000000/