「年収の壁」見直しへの道のり混迷　注目される政府・与党の議論

いわゆる「年収の壁」の抜本的な解消に向けて、厚生労働省の年金部会で議論が始まっている。壁が存在する根本的な要因は、会社員らの配偶者が扶養される「第3号被保険者」制度にある。厚労省は部会での議論を積み重ねて、来年末までに恒久的な改革案をまとめたい考えだ。根本的な解消は難しいが、年金部会では出席する委員から厚生年金の加入要件を引き下げる案も提唱されており、議論の行方が注目される。

　年収の壁は、配偶者の扶養に入るパート労働者が、一定の年収を超えると社会保険料や税の負担が生じるため、就業調整する現象を指す。壁はいくつか存在するものの、10月から始まっている支援強化パッケージで解消の主なターゲットとされたのは、厚生年金に加入しなければならない「106万円」の壁だ。加入要件が徐々に緩和されており、この壁に当たる人が増えているためだ。

　従業員101人以上の企業では年収106万円、月収に換算して8万8000円以上稼ぎ、週20時間以上働いているなどの要件を満たすと、厚生年金が受け取れる社会保険に加入しなければならない。来年10月からは51人以上の企業に拡大し、将来的にはこの人数制限を撤廃する方向で議論が進められている。

　一方で、厚労省の推計によれば106万円の壁を意識している人は最大45万人に上る。国民年金と比べ手厚い厚生年金を将来受け取るよりも、今の手取りの維持を重視しているとみられる。人口減少も伴い、企業の間では人手不足の原因とやり玉に挙がる。

　東京都内でスーパー「アキダイ」を経営する秋葉弘道社長は「年収の壁もあり、ずっと人手不足だ。パートがシフトに入れない分は正社員が負担するほかない」とため息をつく。

　そこで政府は支援強化パッケージで、社会保険料の負担で手取りが減らない水準（年収125万円程度）まで最大3年かけて賃上げした企業に助成金を出すことにした。厚労省の担当者は「助成金をきっかけに新しく壁を超える人だけでなく企業には職場全体の賃上げを」と強調する。ただ、この案では一時的に公費で保険料を実質的に肩代わりするため、恩恵のない人からすれば不公平にも映る。

　恒久的な改革案作りに向け、年金部会では9月に年収の壁対策が議論されている。厚労省は議論の材料として、年収を増やして扶養を外れ、厚生年金に入った人の保険料負担を一定の年収まで免除するケースなどいくつかの事例を紹介した。このような免除に対し、大半の委員は「既に厚生年金に入っている人との公平性が担保できない」などと反論。厚労省幹部は「どこにゆがみが生じるのか改めて明らかにすることができた」とし、単純に保険料を免除するだけでは解決できないことが浮き彫りになった。

　代わって複数の委員から提…(以下有料版で，残り789文字)

毎日新聞 2023/12/12 18:00（最終更新 12/13 06:09） 有料記事 1957文字
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