Ｇ７で際立つカナダの移民政策。積極受け入れで競争力強化。移民受け入れに世論の根強い支持。懸念材料は文化への脅威

　　カナダの総人口は先週、4000万人を初めて突破した。米カリフォルニア州とほぼ同じ数の人々が暮らすカナダだが、１年で増やした人口はサンフランシスコ全住民の数を超えた。国境を越えてやって来る労働者や難民、留学生を歓迎するカナダは、急ペースで人口の伸びが続くと予想される。

　　高度なスキルを持つ働き手の確保で世界的に競争が激化する中で、トルドー政権にとって大量移民受け入れの実験は労働市場を拡大する一つの方策であるとともに、国際社会での存在感を高め、隣接する米国からの強過ぎる影響からの脱却を図るという長期的な野心の表れでもある。

　　トロント州立大学教授でカナダ移民政策が専門のウシャ・ジョージ氏は「われわれには移民受け入れの余地が大いにある」と指摘。「農業や工業、テクノロジー面での基盤を拡大するために、より多くの移民に来てもらう必要がある」と述べる。

　　トルドー政権は、毎年約50万人の永住者を増やす目標を設定。留学生や派遣労働者、難民らが大きく増えた昨年は、人口増加が初めて100万人を超え、カナダの年間人口増加率は2.7％と、先進国で最も高くなった。

　　フレーザー移民・難民・市民権相はインタビューで、「もし移民を受け入れなければ、コミュニティーにマイナスの影響を及ぼす社会・経済的な帰結が多くあることを認識しなければならない」と述べ、「多数の人々をうまく統合するには、賢明な移民政策を進める必要がある」と指摘した。

　　主要７カ国（Ｇ７）で人口最少のカナダは今や、４人に１人近くが移民で、その割合はＧ７最大。現行ペースなら、カナダの人口は約26年後に倍になり、2050年までにイタリアとフランス、英国、ドイツを追い抜く。

　　税収減と予算縮小につながる人口高齢化の差し迫った脅威は、世界中でさまざまな形で露呈している。定年を２年引き上げて64歳にするフランスの計画は、全国的な抗議活動を引き起こした。ドイツは20年代末までに労働者が500万人減るリスクを抱えており、すでに工業中心の独経済はきしみ始めている。

　　政府が長らく移民受け入れに否定的だった日本は、深刻な人手不足や急速な人口減少、地方の空洞化に見舞われている。移民が世論を分かつ政治問題となっている米国では、毎日何千人もの移民がメキシコ国境を行き来する中で、国民の分断が進む恐れもある。

　　移民受け入れに対する世論の支持も根強い。移民に関する調査を毎年実施しているエンバイロニクス調査研究所のエグゼクティブディレクター、アンドルー・パーキン氏は、カナダ国民が移民を「政策ではなく価値観」と見なしていると説明している。

　　直近の調査では、回答者のほぼ70％が「全体としてカナダへの移民が多過ぎる」との見方に同意しないとしており、これは1977年のこの世論調査開始後で最も高い割合だ。

　　移民が多過ぎると答えた27％が挙げた最も一般的な理由は文化への脅威だった。

　　カナダで２番目に人口の多い州であるフランス語圏のケベックでは、人口動態の変化に対する懸念が高まり、同州は永住者目標の引き上げに抵抗。ルゴー州首相は仏語の衰退につながるとの懸念から、他の地域と同じような大幅な移民受け入れ数増加を容認しないと述べている。

　　ただ同時に、複数の経済団体が正規雇用者を増やしたいとして移民受け入れの拡大を繰り返し要請。ケベック州の企業は人材確保で派遣社員に頼る動きを強めており、外国人派遣労働者の数はわずか３年で65％急増した。

原題：Mass Immigration Gives Canada an Edge in Global Race for Labor（抜粋）