「大型ドーム球場」建設は絶望的…静岡県の「マル秘」報告書に書かれていた衝撃の事実

精神科病院が隣接して、音楽イベントができない

浜松市の遠州灘海浜公園に建設が計画されている大型球場。

周辺環境への悪影響からドーム型へと変更されたが、その費用の大きさから、野球場としての利用に限らない利用目的を再考する次第となった。

当初はその目的を2024年の夏に「官民連携導入可能性調査」の報告書で公表するはずだったが、盛り込まれることはなかった。

静岡県議会などにもいまだに公表されず、その内容は‟マル秘”扱いとされている。

このため、筆者が県情報公開条例に基づき報告書の開示請求を行った。

すると、大型ドーム球場建設計画地のすぐ東側に約300床の精神科病院が隣接するという驚くべき事実がわかった。静岡県はこれまで精神科病院の存在を隠していたのだ。

精神科病院が隣接することで、入院患者らの不眠、不安などの精神症状や認知症状などを悪化させないための配慮が不可欠となり、

大音量での音響が必須である音楽イベントなどは開催できないことになる。

開示請求した情報公開した調査報告書では、大型ドーム球場の建設・運営・管理をする38事業者にアンケート調査を行い、

29事業者から回答を得て、そのうち、16事業者にヒアリング調査を行った結果をまとめている。

大型ドーム球場としても、プロ野球の開催は望めず、建設コストの回収は難しいとの回答が多かった。

前編で述べたように、遠州浜海岸は国際保護動物で絶滅危惧種アカウミガメの産卵地として世界的に有名であり、産卵後の子ガメ保護のために照明は使えない。

照明・音響でのハンディがあり、音楽イベント利用の可能性がほぼないことから、

ドーム型はオーバースペックであるとして、また空調を含めた水道光熱費に膨大な費用が想定されるとしている。

もともと、大型ドーム球場建設にほとんどの業者が否定的だったはずだ。

結局、非常に不便な場所にあるだけの不良物件となる。

それだけでなく、南海トラフ地震の津波浸水地域に当たり、来場者の輸送インフラなどの課題も大きい。

立地条件があまりにも悪く、プロモータらは音楽イベントなどの開催地に選ばないとしている。

大型ドーム球場なのにプロ野球の開催などは望めず、プロ野球に代わり、集客の望める音楽イベントなどの開催が期待されたが、それもほぼ不可能となった。

これでは、600億円超となる大型ドーム球場を建設しても、費用対効果は全く望めない‟大赤字施設”となることが確実だ。

いずれ県議会などで報告書の内容がすべて公表されれば、大型ドーム球場建設が絶望的となるだけでなく、公園計画そのものの見直しにまで波及することは避けられない。
https://news.yahoo.co.jp/articles/0c18f63393d88296cc172e3e95cfd74ea2b93c75

隠ぺいせざるを得ない状況なのはわかった。しかし、誰がその原因なのだろう。

官民連携導入可能性調査によって、大型ドーム球場を推進しようとした川勝知事の思惑を見事に裏切ってしまう結果となった。

その川勝知事は昨年4月初め、新人職員へのあいさつで、思わぬ職業差別発言が出たことで辞意表明に追い込まれ、5月に辞職した。

調査結果は3月末までには出されていて、当時、川勝知事はその結果を基本計画に盛り込むことを指示していた。

結局、ゴタゴタの中で大型ドーム計画どころではなくなってしまったのだろう。

基本計画策定時には、川勝氏から鈴木知事に交代していた。大型ドーム建設について川勝氏に火をつけたのも、4期16年浜松市長を務めた鈴木康友知事である。

鈴木知事は2022年から、商工会議所、自治体連合会などで設置した「新野球場建設促進期成同盟会」の会長に就いて、川勝氏にドーム球場の建設を強く求めていた。

川勝氏の後継を争った昨年5月の知事選に出馬すると、「開放型ドーム球場」を強く推し進めていくと宣言した。

自民党推薦の元総務官僚候補が「ドームありきの議論はストップ」「ゼロベースで再検証」などと唱えたが、ドーム球場推進の鈴木康友氏が約7万票の大差をつけて勝利した。

それなのに、昨年6月に就任した鈴木知事は大型ドーム球場建設の推進を口にすることがなくなってしまった。

それどころか、県と浜松市による協議会に結論を委ねるとして、そこでゼロベースで協議してもらうとの姿勢に転じてしまった。

つまり、知事就任後、県当局から官民連携導入調査の結果を示され、開放型ドーム球場などはほぼ不可能に近いことを理解させられたのだろう。

基本計画に調査結果を盛り込めば、県議会などがドーム球場建設に大反対するのは目に見えていた。

だから、県は調査結果を隠ぺいしてしまった可能性が高い。

もともと津波浸水危険地域であり、最初からケチのついた計画だった。

東日本大震災を受けて、2020年3月に遠州浜海岸に高さ13~15メートルの防潮堤を建設した。

ただ、この防潮堤でも、南海トラフ地震の津波対策は十分ではない。

県担当者は「津波は防潮堤を越える可能性が高い。あくまでも被害を減らすためのもので完璧ではない」として、

2メートル以上の浸水があれば、球場の観客席に逃げるしかないという極めて危険な施設であると批判を浴びていたのだ。

それでも県は来年度予算に4億7300万円を計上して、用地の一部を取得することを始めるという。

浜松市長時代から10年以上にわたって新野球場建設を積極的に推進してきた鈴木知事に、いまさらやめるという選択肢はないのだろう。

当初事業費の3倍近くとなったのに、大赤字が確実の大型ドーム球場建設を進めることの無謀さを鈴木知事も承知しているはずである。

昨年12月25日、鈴木知事の後ろ盾だった鈴木修氏が94歳で亡くなった。

鈴木修氏の悲願をかなえる大型ドーム球場に固執していれば、せっかくつかんだ「知事の座」を失う可能性は高い。

それでも建設場所は変えなきゃいけなくなる
今の建設予定地は津波がモロに来るエリアなんだろ

　そこで「万博」という国家プロジェクトの出番だ。国や自治体がかなりの金を出して、会場や交通インフラ整備をしてくれる。しかも、わずか数カ月であっても国際イベントを開催すれば、単なる埋立地が「万博跡地」に格上げされる。海外のIR事業者からすれば、国や自治体からここまで手厚いサポートをされて進出しないわけにはいかない。

　こうした生々しい「オトナの事情」は、あまり世の中で知られていない。「万博は日本の成長を持続させる起爆剤だ」という日本人好みのストーリーが盛んに語られているからだ。