米国防に党派対立、軍高官300人承認停滞　中絶論争で

【ワシントン=中村亮】300人を超える米軍高官の議会承認が滞っている。米兵が人工妊娠中絶をするための渡航費を補助する制度に野党・共和党議員が反対するからだ。党派対立が国防分野に波及し、中国やロシアへの対処に影を落とす。

「前代未聞かつ不要であり、危険だ」。オースティン米国防長官は14日、海軍制服組トップのマイケル・ギルディ作戦部長の退任式で不満を漏らした。後任に指名されたリサ・フランチェッティ氏の承認手続きが進んでいないためだ。

海兵隊と陸軍も上院の承認を得た制服組トップがいない。オースティン氏によると、大統領や国防長官を補佐する統合参謀本部のメンバー8人のうち3人が空席になるのは史上初めて。統合参謀本部議長のミリー氏も9月に退任する予定だ。

共和党のトミー・タバービル上院議員が、中絶を受けるための渡航補助制度に反対し、人事承認の手続きを差し止めている。タバービル氏は制度が中絶に連邦資金を使うことを禁じるハイド修正条項に違反すると主張する。

連邦最高裁は2022年6月、中絶を憲法上の権利と認めた1973年のロー対ウェード判決を覆した。共和党の影響力が強い州で中絶禁止が相次いだ。女性は配属先によっては中絶をするため他州へ移動する必要が生じ、国防総省が補助制度を始めた。

上院は手続きをおおむね全会一致で進めるルールがある。原則として全会一致になれば人事承認の手続きを大幅に省略できるが、1人でも反対者が出ると手続きを減らせないため承認が滞る。人事承認そのものは上院の過半数の賛成で可決できる。

対立に拍車をかけたのが宇宙軍司令部の移転中止だ。バイデン氏は7月末、トランプ前政権が決めた西部コロラド州から南部アラバマ州に移す計画を撤回した。タバービル氏はアラバマ州選出の上院議員だ。

米国家安全保障会議（NSC）のカービー戦略広報調整官は計画撤回に関し、タバービル氏への対抗措置ではないと火消しに追われた。共和党内には民主党寄りに傾くコロラド州に配慮した政治判断との見方もあり、計画撤回の経緯を調べる構えだ。

中絶論争の影響は米軍高官人事にとどまらない。下院は24会計年度（23年10月から24年9月）の国防権限法案に渡航補助制度の廃止を盛った。7月中旬に賛成219票、反対210票の僅差で可決した。下院で多数派の共和党が押し切った。

与野党が採決前に対立事項を擦り合わせて国防政策を超党派で進める慣習を破った。一方、与党・民主党が多数派を握る上院が7月末に賛成86票、反対11票で可決した国防権限法案は制度廃止を明記していない。

国防権限法案は中国やロシアへの対抗に軸足を置き、兵器の開発・調達、軍事訓練、ウクライナ支援などを盛る。

上下両院は今秋、それぞれが可決した法案を一本化する調整作業に入る。保守強硬派の代表格マージョリー・テーラー・グリーン下院議員が共和党代表の一人として調整作業に参加する見通しだ。上院と擦り合わせが難航する公算が大きい。

マッカーシー下院議長は少数の議席差で共和党のトップを務める。保守強硬派の意見を取り入れないと党をまとめられない。下院は大半の議員が24年11月の選挙に臨み、共和党は保守派が重視する中絶問題で譲歩しにくい。

本来は毎年9月末までに成立させる必要があるが、過去には遅れるケースが相次いだ。中国やロシアと競争が激しくなるなかで一部の予算執行が遅れるため今年は9月中に成立させるべきだとの声が目立っていた。党派対立が強まり実現が危うくなる。

日本経済新聞　2023年8月15日 4:46 (2023年8月15日 7:44更新)
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米が国内政争を楽しんでいるなら日本があえて台湾戦争に参戦する義理もないような？

宗教絡みだから"被害者"の救済は神や宗教が行う考えなので自分自身は無責任な立ち位置から言えるし
逆らえば死が見える同調圧力もあるので他の言葉が言えない