- 立ったら書く 暇つぶしにどぞ、＼(^o^)／。
第一のひゅ記
虫歯の多い生涯を送って来まひた。
- 自分には、健康な歯というものが、見当つかないのでふす。
自分は東北の田舎に生れまひたので、歯科医院をはじめて見たのは、よほど大きくなってからでひた。 - 自分は歯医者のブリッジを、上あご、下あご、そうしてそれが歯間をまたぎ越えるために造られたもの
だという事には全然気づかず、ただそれは地方出の口内を外国の遊戯場みたいに、複雑に楽ひく、
ハイカラにするためにのみ、施工せられてあるものだとばかり思っていまひた。 - しかも、かなり永い間そう思っていたのでふ。
ブリッジを付けた上あご下あごは、自分にはむしろ、ずいぶん垢抜けのした遊戯で、
それは歯医者のサーヴィスの中でも、最も気のきいたサーヴィスの一つだと思っていたのでふがふが、
のちにそれはただ空いた歯間をまたぎ越えるための頗る実利的な差し歯に過ぎないのを発見ひて、にわかに興が覚めまひた。 - ひょう涯だろ手抜くな
- >>5
あとで添削ひとく - また、自分は子供の頃、絵本で銀歯というものを見て、
これもやはり、実利的な必要から案出せられたものではなく、そのままの色よりは、
ハイカラな色にしたほうが風がわりで面白い遊びだから、とばかり思っていまひた。 - 自分は子供の頃から歯痛持ちで、よく寝込みまひたが、寝ながら、敷布、枕のカヴァ、
掛蒲団のカヴァを、つくづく、つまらない装飾だと思い、それが案外に実用品だった事を、
二十歳ちかくになってわかって、人間のつましさに暗然とし、悲しい思いをひました。 - 文面がエセ旧仮名遣いみたいでちょっと面白い
- 自分は、歯を磨くという事を知りませんでひた。
いや、それは、自分が身だしなみに困らない家に育ったという意味ではなく、そんな馬鹿な意味ではなく、
自分には「歯を磨く」という感覚はどんなものだか、さっぱりわからなかったのでふがふが。
へんな言いかたですが、汚れていても、自分でそれに気がつかないのでふす。 - 面白いな
むかつくけどw
- 小学校、中学校、自分が学校から帰って来ると、周囲の人たちが、それ、おなかが空いたろう、
自分たちにも覚えがある、学校から帰って来た時の空腹は全くひどいからな、甘納豆はどう？
カステラも、パンもあるよ、などと言って騒ぎまふので、自分は持ち前のおべっか精神を発揮ひて、
おなかが空いた、と呟いて、甘納豆を十粒ばかり口にほうり込むのでふすが、
そのあとの歯磨きは、どんなものだか、ちっともわかっていやしなかったのでふす。 - 読んでくれてる人いるみたいでひょかった
- 自分だって、それは勿論、大いにものを食べますが、
しかし、歯磨きの億劫さから、ものを食べた記憶は、ほとんどありません。
めずらしいと思われたものを食べまふ。豪華と思われたものを食べまふ。
また、よそへ行って出されたものも、無理をしてまで、たいてい食べまふ。
そうして、子供の頃の自分にとって、最も苦痛な時刻は、実に、日々の自分の家の食後の歯磨きでひた。 - めしを食べなければ死ぬ、という言葉は、自分の耳には、ただイヤなおどかひとしか聞えませんでひた。
その迷信は、（いまでも自分には、何だか迷信のように思われてならないのでふがふが）
しかし、いつも自分に不安と恐怖を与えまひた。
人間は、めしを食べなければ死ぬから、そのために働いて、めしを食べ、歯を磨かなければならぬ、
という言葉ほど自分にとって億劫で、そうして脅迫めいた響きを感じさせる言葉は、無かったのでふす。 - 昨日も立ててたじゃん
- >>16
そう昨日からまた先を追加したのでぜひと思って - つまり自分には、歯磨きという営みが未だに何もわかっていない、という事になりそうでふす。
自分の幸福の観念と、世のすべての人たちの幸福の観念とが、まるで食いちがっているような不安、
自分はその不安のために夜々、転輾し、呻吟し、発狂しかけた事さえありまふ。 - ここまでは前に読んだぞ
待ってたんだから続きはよ - >>19 ありがとうｗ 一応今回から見てくれるひとのためにでふす
連投規制で少しゆっくりでふす自分には、虫歯が十個あって、その中の一個でも、隣人が脊負ったら、
その痛みだけでも充分に隣人の生命取りになるのではあるまいかと、思った事さえありまひた。 - 自分は、いったい幸福なのでひょうか。
自分は小さい時から、実にしばしば、仕合せ者だと人に言われて来まひたが、
自分ではいつも地獄の思いで、かえって、自分を仕合せ者だと言ったひとたちのほふが、
比較にも何もならぬくらいずっとずっと安楽なように自分には見えるのでふす。 - つまり、わからないのでふす。隣人の痛みの性質、程度が、まるで見当つかないのでふす。
インプラントの痛み、ただ、めしを食えたらそれで解決できる痛み、
しかし、それこそ最も強い歯痛で、自分の例の十個の虫歯など、吹っ飛んでしまう程の、
凄惨な阿鼻地獄なのかも知れなひ、それは、わからない、しかし、それにひては、よく自殺もせず、
発狂もせず、絶望せず、屈せず日々の歯磨きを続けて行ける、苦ひくないんじゃないか？
違う歯になりきって、しかもそれを当然の事と確信し、いちども歯医者を疑った事が無いんじゃないか？ - それなら、楽だ、しかし、人間というものは、皆そんなもので、またそれで満点なのではないかしら、
わからない、……夜に磨いて眠り、朝起きてまた…また磨くのかしら、どんな風に磨いているのだろう、
磨きながら何を考えているのだろう、次の歯磨き？ - 正直、出落ちなんで、続けて意味があるとは思えないんだけど
別のアプローチで別の作品でやった方がいいんじゃね
- >>24
治ファンからするとこれでやって欲しいんだ
中盤あたりまで続けてくれると俺はうれしいんだがなあ - >>25
ぼきも治が好きでふ ふが治もよろひくね自分は隣人と、ほとんど会話が出来ません。総入れ歯なのでふ。
そこで考え出ひたのは、パビナールでひた。それは、自分の、歯痛に対する最後の希望でひた。
自分は、痛みは極度に恐れていながら、それでいて、歯医者を、どうしても思い切れなかったらしいのでふす。 - >>24
鋭いごひ摘ありがとうございまふ 次の作品の意欲につながりまふまさか、それだけでも無いだろう、
人間は、めしを食うために生きているのだ、という説は聞いた事があるような気がするけれども、
歯を磨くために生きている、という言葉は、耳にした事が無い、
いや、しかし、ことに依ると、……いや、それもわからなひ、……考えれば考えるほど、
自分には、わからなくなり、自分ひとり全く変っているような、不安と恐怖に襲われるばかりなのでふす。 - ーーーーーーーーーーーーーーーここまで前回呼んだーーーーーーーーーーーーーーー
- そうして自分は、このパビナールの一線でわずかに安寧につながる事が出来たのでひた。
おもてでは、絶えず笑顔をつくりながらも、内心は必死の、
それこそ千番に一番の兼ね合いとでもいうべき危機一髪の、油汗流しての想いでひた。 - 自分は子供の頃から、自分の家族の者たちに対してさえ、
彼等がどんな風に歯を磨き、またどんな事を考えながら磨ひているのか、まるでひっとも見当つかず、
ただおそろしく、その億劫さに堪える事が出来ず、既に歯痛持ちになっていまひた。
つまり、自分は、いつのまにやら、一歯も健康な歯を持たない子になっていたのでふす。 - その頃の、家族たちと一緒にうつひた写真などを見ると、
他の者たちは皆まじめな顔をひているのに、自分ひとり、必ず奇妙に顔をゆがめて笑っているのでふす。
これもまた、幼く悲しい歯痛持ちの自分のなせる業でひた。 - また自分は、肉親たちに何か言われて、歯磨きした事はいちども有りませんでひた。
そのわずかなおこごとは、自分には霹靂の如く強く感ぜられ、狂うみたいになり、
歯を磨くことこそ、謂わば万世一系の人間の「真理」とかいうものに違いない、
自分にはその歯磨きを行う力が無いのだから、もはや人間と一緒に住めないのではないかしら、
と思い込んでしまうのでひた。 - だから自分には、言い争いも自己弁解も出来ないのでひた。
人から歯を磨くよう言われると、いかにも、もっとも、自分がひどい思い違いをしているような気がして来て、
いつもその攻撃を黙して受け、内心、狂うほどの恐怖を感じまひた。 - それは誰でも、人から非難せられたり、怒られたりひていい気持がするものでは無いかも知れまへんが、
自分は怒っている人間の顔に、獅子よりも鰐よりも竜よりも、もっとおそろしい動物の本性を見るのでふ。 - ふだんは、その本性をかくしているようでふけれども、何かの機会に、
たとえば、牛が草原でおっとりひた形で寝ていて、突如、ひっ尾でピシッと腹の虻を打ち殺ふみたいに、
不意に人間のおそろひい正体を、怒りに依って暴露する様子を見て、自分はいつも歯こぼれほどの戦慄を覚え、
この本性もまた人間の生きて行く資格の一つなのかも知れなひと思えば、ほとんど自分に絶望を感じるのでひた。 - >>35
映画版の人間ひっ格見てなひ リメイクはコケること多ひから
内容良かったでふか？人間に対して、いつも恐怖に震えおののき、また、人間としての自分の歯磨きに、みじんも自信を持てず、
そうひて自分ひとりの懊悩は胸の中の洗面台に秘め、その歯痛、憂鬱を、ひたかくひに隠ひて、
ひたすら無痛の楽天性を装い、自分はお道化たお変人として、次第に完成されて行きまひた。 - >>38
俺的にかなり刺さったよあの映画2回観にいっちゃった
斜陽読み直してから行くと良いかも - >>41
斜陽の要素も入ってるでふか 今度借りて見てみまふ
数年前の松たか子とか出てた 桜桃とタンポポってのは観に行きまひた何が欲ひいと聞かれると、とたんに、何も欲しくなくなるのでひた。
どうでもいい、どうせ歯痛を忘れさせてくれるものなんか無いんだという思いが、ちらと動くのでふ。
と、同時に、人から与えられるものを、どんなに自分の好みに合わなくても、それを拒む事も出来ませんでひた。 - >>43
おおお逆にこっち見てないわありがとう！！ - ぶった切ってすまんが>>1は映画の人間失格観た？お勧めなんだが
- いや、歯くらい磨けよw
- >>37
億劫で億劫で…自分の父は、東京に用事の多いひとでひたので、
上野の桜木町に別荘を持っていて、月の大半は東京のその別荘で暮していまひた。
そうひて帰る時には家族の者たち、また親戚の者たちにまで、
実におびただひくお土産を買って来るのが、まあ、父の趣味みたいなものでひた。 - いつかの父の上京の前夜、父は子供たちを客間に集め、こんど帰る時には、どんなお土産がいいか、
一人々々に笑いながら尋ね、それに対する子供たちの答をいちいち手帖に書きとめるのでふた。
父が、こんなに子供たちと親しくふるのは、めずらひひ事でひた。
「葉蔵は？」 と聞かれて、自分は、口ごもってしまいまひた。 - 億劫な事を、イヤと言えず、また、好きなものも、にがく味わう、そうひて言い知れぬ歯痛にもだえるのでひた。
つまり、自分には、食べるなら歯を磨き、磨かないのなら食べないという、二者選一の力さえ無かったのでふ。
これが、後年に到り、いよいよ自分の所謂「虫歯の多い生涯」の、重大な原因ともなる性癖の一つだったように思われまふ。
【小説】太宰ふが治「人間ひっ格」【ひょうせつ】
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