リビア人さん、カダフィ政権時代に戻りたいと咽び泣く　「欧米に騙された。民主化デモなんかするんじゃなかった」

　カイロ市内の住宅街。カダフィ氏のいとこで最側近だったアフメド・ガッダファダム氏（６９）が、自宅の壁に掛かった「２人」の写真を眺めていた。故郷の草原に立つ若いころの同氏とカダフィ氏。「（カダフィ氏は）『自分の国で死ぬ』と言っていたが、最後まで本当にリビアを離れなかった」と振り返る。

　リビアで反政府デモが始まった２０１１年２月、ガッダファダム氏はカダフィ氏の命を受けてリビアを離れた。その後、反体制派を支援する北大西洋条約機構（ＮＡＴＯ）の軍事介入などで政府軍は追い込まれ、同年８月末に政権は崩壊。カダフィ氏は反体制派に拘束され、裁判を受けることなく殺害された。

　政権崩壊後、リビアは東西勢力に分裂して内戦に突入し、治安は著しく悪化した。２００万人近くが国外へ逃れ、豊かだった国は大きく様変わりした。ガッダファダム氏は「欧米は介入だけして、何ももたらさなかった。なぜリビアは壊されたのか。その理由を教えてほしい」と語気を強めた。

　カダフィ氏は遊牧民ベドウィンの出身で、無血クーデターを経て、２７歳で権力を掌握した。舌鋒鋭く欧米や国連を批判し、その強硬姿勢は「中東の狂犬」と揶揄された。豊富な石油資源を武器に外交手腕を発揮し、リビアをけん引。民族衣装をまとい、外遊時は遊牧民テントを持参して野営するなど、ユニークな存在として広く知られた。

　人間的にも人を引きつけ、幾度も外遊に同行した地元紙「リビア・トゥデー」元編集長エーゾルアラブ・アブアルカーセム氏（６６）によると、カダフィ氏が「一緒に食事をしよう」と同行記者を誘うこともあった。「気取ったところがなく、人の心をつかむのが非常にうまかった」

　一方で、自身の一族を要職に据えて優遇し、社会格差も生んだ。政府援助は充実していたものの、社会的不公平さに対する国民の不満は蓄積し、１１年の反政府デモの下地を作った。リビア西部ミスラタの政府職員アフメド・アブアリさん（３５）は電話取材に「リビアはカダフィ一族のための国だった。一族以外は豊かではなかった」と話す。